高付加価値サービス創出支援事業
事例紹介 ー 株式会社ハーベス ー
to C、to Bの知見がそれぞれ生きた共創関係に。
高付加価値ペットフードが生まれるまで

さいたま市内のオープンイノベーションを加速するべく、2024年、「さいたま市高付加価値サービス創出支援補助金」(さいたま市産業創造財団)がスタートしました。
大きく変化し続ける社会の中で、基幹事業の成長の鈍化を感じたり、長期的な計画を立てることの難しさを感じる企業も多いはず。全く異なるカルチャーを有する企業とのオープンイノベーションは、どのように組織を成長させるのでしょうか?
今回の補助金に申請した企業のひとつ、株式会社ハーベスは、特殊潤滑油のメーカーとして知られるだけでなく、幅広い事業のM&Aの経験があり、もともと企業間との連携は得意分野。今回、補助金を活用したオープンイノベーションとして挑んだのは、ハーベスが全国の7割の動物病院と取引をしているペット向けの栄養補助食品の「to C化」でした。
新たな挑戦の舞台裏を、事業を牽引した株式会社ハーベス 取締役の関舜太郎さんに伺いました。
ニッチで高付加価値のものを狙った事業展開
- 株式会社ハーベスさんの事業内容を教えていただけますか?
-
関さん:弊社は1988年創業で、カメラなどの光学機器に利用される特殊潤滑剤のメーカーとして大きく業績を伸ばしてきました。近年だと、オフィスで使われるOA機器や、電子機器、自動車関連など、世界各国の企業さんに採用いただいています。
主力事業である潤滑剤は変わらず、事業の多角化も進んでいます。大手メーカーさんが手がける商品の包装・充填事業や、ペット向けの栄養補助食品、化粧品事業、福島県の奥会津で湧く天然炭酸の水の製造・販売なども拡大しているところです。
また、近年はM&Aを積極的に推進しています。例えば、自動車メーカーのオプションパーツや大型看板の樹脂成型のほか、フレグランス事業など、ニッチですが高付加価値のものを狙っているのが特徴かと思います。
主力事業一本に注力していると、どうしても市場の成長の鈍化には耐えられなくなりますので、生き残るためにも、異なる領域の事業を第二、第三の柱にしたいという戦略がありますね。
- 「さいたま市高付加価値サービス創出支援補助金」を知ったきっかけは?
-
関さん:もともと、「さいたま市リーディングエッジ企業」(※独創性・革新性に優れた技術を有する市内の研究開発型ものづくり企業を認証する制度)の認定を受けてから、さいたま市産業創造財団さんには色々とサポートをいただいていました。
認証企業ということで、さいたま市さんが定期的にヒアリングやオーダーメイド型の支援を提供してくださっており、その時にこの補助金について教えていただいたんです。
実は、「奥会津金山 天然炭酸の水」のリブランディングの際も、ホームページの改修など、財団さんにご支援いただいたことがありました。
ペットも喜び、飼い主のQOLも上がる高付加価値のペットフード

- 今回の事業計画の詳細について教えてください。
-
関さん:弊社のNST(ニュートリションサポートチーム)という部門では、ペットの治療を栄養学に基づいた食で助けるため、野菜や鶏肉をベースにした高品質の製品を開発してきました。これはペットの自己治癒力に働きかけるもので、その体調に合わせて摂取する必要があるので、動物病院にしか卸していません。to Cにしてしまうと、摂取量を間違えてかえって健康被害につながってしまう危険性がありました。薬ではないのですが、先生の処方のもと使ってください、という製品なんです。
今回、補助金をいただいて挑戦したかったのが、その「to C」への展開でした。やはり、大事な家族であるペットの健康を考えたときに、毎日の食事は欠かせないものです。リサーチを重ねてみると、飼い主さんは「食いつき」を大変気にされていることがわかりました。
- そもそも食べてくれないと、健康維持は難しいですよね。
-
関さん:私も犬を飼っているので良くわかるのですが、一般的にドッグフードとしてイメージされるカリカリのドライフードを、うちの犬はなかなか食べてくれなかったんです。わんちゃんにとって美味しいものを用意しようとなると、どうしても価格とトレードオフになってしまって、経済的に厳しい。ちょっと高いものを砕いて混ぜて、なんとか食べてもらうという経験もしました。
そのため今回挑戦したかったのが、ペットが美味しいと喜んで食べてくれて、ペットの喜びが結果的に飼い主のQOLも上がるという高付加価値のフリーズドライ製法のペットフードでした。まずはドッグフードから初め、ペット全般に拡大していく予定です。
- 今回、オープンイノベーションでご一緒された企業さんとは、どのような繋がりがあったんですか?
-
関さん:ご一緒したのが、九州の会社さん、株式会社みちのくファームさんの2社です。前者は、もともと当社のサプリメント製造、加工を通じて長年のパートナーシップがありました。みちのくファームさんは、お付き合いさせていただいている銀行から「こんな会社があります」とご紹介いただいたのがきっかけです。
みちのくファームさんはまさに、ずっとto Cで愛犬が喜ぶ自然食専門店をやられてきた企業で、国内では珍しいフリーズドライの設備をお持ちです。弊社のレシピをもとに、九州で飼育されている鶏肉を加工して、ドロドロの状態のものをみちのくファームさんに送ってフリーズドライにする、という流れでした。
to Cとto Bの共創でそれぞれの成長につながる

- 三社間の連携を振り返ってみて、いかがでしたか?
- 関さん:みちのくさんの製造キャパシティや、半製品からフリーズドライにする過程でのサイズの調整など、色々と課題はありました。それに対して、意見を出し合って試行錯誤した過程が、まさにオープンイノベーションだったかな、と思います。また、三社間で「ワンちゃんの健康のために頑張りたい」という理念を共通できたことは大きかったと思います。
- 今後の事業の展望は?
-
関さん:まだまだフリーズドライにする過程で思ったような強度にならず、砕けてしまうという段階なので、引き続きブラッシュアップが必要です。サンプル品を作って、うちの犬や社員の犬に食べさせたところ、とても食いつきが良くて驚きましたし、これは意義のあることだと改めて感じています。
みちのくファームさんにとっても、弊社のレシピ開発のノウハウ等が蓄積され、良い共創関係を築くことができたと思います。補助金のおかげでまずは始動することができたので、引き続き弊社のto C向けの事業として継続する予定です。
補助金があることで、社員の理解を得やすかったんですよね。どうしても、「成功するかどうかわからない事業に会社のお金を投入していいのか」という不安はつきものです。日常業務にプラスして新しい負担も発生します。それでも、この補助金がいい意味で「言い訳」になったと思いますし、人を巻き込みやすかったです。
一緒に事業を進めてくれた弊社の社員はもともとto Cの事業に対して懐疑的だったのですが、みちのくファームさんを実際に訪問したり、事業に関わったりする中で良い刺激を受けているようでした。今ではかなり意識も変わってきていると感じます。
そういうメリットばかりですし、中小企業が外部連携に取り組まない手はないと思います。ぜひ自社事業の高付加価値化をさまざまな企業さんにチャレンジしてみていただきたいですね。